CULTURE 2026.06.08

ベテランディレクターに聞く、AI時代に生きる普遍のディレクション術

ベテランディレクターに聞く、AI時代に生きる普遍のディレクション術 のメインビジュアル

AIが目覚ましい進化を遂げ、要件定義やコーディングも担いつつある時代、プロダクト開発の中でディレクターが引き受けるべきは、どんな役割なのでしょうか。今回はそんな問いを、インターネット黎明期からディレクターとしてスキルを磨いてきた中尾に投げかけてみました。技術が進化するほど大切になる、お客様やプロジェクトメンバーとの認識合わせのノウハウなど、AIには代替不可能なディレクター業務の本質を紐解いていきます。

中尾 美幸

中尾 美幸ナカオ ミユキ

クリエイティブグループ ディレクター

2022年入社。デザイン会社、印刷会社、ベンダー、ITベンチャーなど複数社を経てジークスへ。UI/UX設計を軸に、開発チームと連携したWebサイト・アプリの設計から、進行管理、運用保守までを一貫して担当。

ディレクターは、お客様と制作・開発の間に立つ「翻訳家」

編集部

編集部

中尾さんは、制作会社や開発会社など、多くの経験を経てディレクターとして活躍されてきたんですよね。

中尾 美幸 インタビューカット
中尾 美幸

中尾 美幸

グラフィックデザイナーからキャリアをスタートして、ディレクターとしては25年ほどの経験があります。コーポレートサイトなどWebサイトのディレクションが強みですが、ジークスに来てからはアプリ案件にも参画。主に新規の受託開発案件に企画から入り、初期の流れをつくりながら、今は約半年~1年ほどのプロジェクトを常時3~5件程度担当しています。

編集部

編集部

多くの経験をしてきた中で、中尾さんが思うディレクターの本質的な役割とは?

中尾 美幸

中尾 美幸

ディレクションを始めた時から明確に考えていたのは、ディレクターは「翻訳家」の立場ということです。事業の専門家であるクライアントはもちろん、デザイナー、エンジニアなど、開発にはさまざまな専門職のメンバーが携わりますよね。各領域で使われる用語も違いますし、同じ言葉でも定義が異なることもある。そこを共通言語化するのが、ディレクターの大切な役目です。

編集部

編集部

進行管理をするだけでなく、お客様や関わるメンバーとの間を取り持つのがディレクターなんですね。

中尾 美幸

中尾 美幸

ディレクターとして「誰に何をやってもらうと目的が達成できるか」を把握するためにも、あいまいな言葉をきっちり定義して再構築し、全員の認識を合わせることが求められます。

お客様とのやりとりでありがちなのが、手段と目的がごっちゃになってしまうこと。例えば「こんなWebサイトをつくりたい」とご依頼いただいたら、「なぜそうしたいのか?」という目的の部分を引き出し、Webサイトという手段が的確なのか、どんな表現がいいのかを考える必要があります。手段と目的を整理して言語化し、優先順位をつけていきます。

編集部

編集部

トラブルが起こったときも、優先順位が大事になりそうですね。

中尾 美幸

中尾 美幸

そうですね、トラブルが起こったときは、客観的に「交通整理」する役割に徹しています。誰に原因を尋ねればいいか、誰が解決できるのかを整理して、いますぐ解決すべきことから今後の防止策まで、優先順位を決めることを心がけています。

編集部

編集部

そうした仲介役になるためには、やはり広い視野が必要ですよね。

中尾 美幸

中尾 美幸

開発の領域も含めて幅広く、そして、そこそこ深く知っておくといいと思います。私自身はデザイナー出身ですが、Webサイトの表側だけでなく裏側の仕組みも知ろうと開発会社に入り、開発プロセスを学びました。そこで得た経験が、ディレクターとしての「共通言語化」に生きていると思います。

ジークスの業務の中から学ぶこともたくさんあります。たとえば、毎日大量のコメントが流れるSlack。自分が関わってないプロジェクトのチャンネルでも、やりとりを見て、開発やデザイン、ディレクションのやり方、メンバーの視点や悩みなどを拾っています。それを蓄積して自分の引き出しを増やしておくことで、自分のディレクションにも役立てられます。

真意を引き出し、顔が見える関係を築く 現場での合意形成テクニック

編集部

編集部

先ほどおっしゃっていたように、クライアントの真意を引き出すには、どんなふうに会話すればいいのでしょうか?

中尾 美幸 インタビューカット
中尾 美幸

中尾 美幸

エンドユーザーが何を求めているか、お客様に伺うようにしていますね。自社の製品・サービスのことを一番よくご存じなのはお客様自身なので、「どんなユーザーさんがいらっしゃるんですか?」と、教えていただくつもりで問いかけます。自分たちが使ってほしい、見てほしいという思いだけでなく、それが相手に届くのか、使いたいと思ってもらえるかという視点から考えていただく。答えはお客様の中にあるので、ディレクターはそれを見つけるきっかけをつくるんです。

編集部

編集部

高いコミュニケーション能力が求められそうです…

中尾 美幸

中尾 美幸

私も昔は、人前に出るのは苦手だったんです(笑)。それでも、打合せや勉強会などで自分から立候補して機会をいただいて、「やめときゃよかった」と思いながら話すことの繰り返し。なかなか気楽に話せるようにはなりませんが、経験していけばある程度慣れていきますよ。

編集部

編集部

エンジニアやデザイナーとの関わり方はいかがですか?

中尾 美幸

中尾 美幸

ジークスでは、会議や打合せはほぼオンラインなんですが、極力カメラオンでお互いの顔が見える形で会話しています。相手がどう受け止めているかが見えて、声だけよりも情報量が圧倒的に多くなるので、「カメラつけて~」と呼びかけていますね。終わるときは手を振ってお別れ。そうしたコミュニケーションが土台にあれば、トラブルや行き違いがあったときもお互い感情的になりにくいです。

編集部

編集部

顔の見える関係が大事なんですね。プロジェクト進行にあたって意識していることも教えてください!

中尾 美幸

中尾 美幸

すでに前提条件になっていて変えられないこと、制作・開発担当として深掘りしてアイデアを出してほしいことを明確に区切っています。「せっかくデザイナーが提案してくれたけど、そこは変えられない部分だった」「自由な発想が欲しかったのに、ワイヤーフレームそのままのものが上がってきた」とならないための認識合わせですね。メンバーの力量やパーソナリティを考慮して、どこまで任せるかを判断することも大切です。

編集部

編集部

メンバー全員の認識を合わせるためにやっていることはありますか?

中尾 美幸

中尾 美幸

意見が一方的にならないように、打合せで黙っている人にもその場で意見を聞いています。「気になったことはある?」「これでできそう?」と声をかけて、後から不満が出ないようにしています。そのうえで制作側と開発側の意見を集約し、どうしたら「いいとこ取り」になるか話し合うことが合意形成につながります。

編集部

編集部

打合せでは、次のアクションにつなげるラップアップを必ず行うそうですね。

中尾 美幸

中尾 美幸

その日の打合せで結論を出さなければならない項目を決めているので、ラスト5分で言語化してまとめています。「次週までに●●さんがこのデザインを考える」「××さんがこれを実装する」など、誰がいつまでに何をするか見えるようにして、役割を明確化します。プロジェクト全体のスケジュールから逆算して、打合せなど細かい時間の流れまで意識することが重要だと思います。

AI時代だからこそ、プロダクト開発に「人間らしさ」を生かす

編集部

編集部

AIの活用が進む中、ディレクションで人間にしか担えないのはどんな領域だと思いますか?

中尾 美幸 インタビューカット
中尾 美幸

中尾 美幸

AIは、私たちの問いかけに対して答えをくれますが、問いを立てることはできません。先ほど役割の明確化という話をしましたが、AIに対しても同じで、こちらから役割を与えて行動してもらうことになります。自分の中にある程度答えを持ってAIに問いかけ、答え合わせというか、壁打ちをしながら解像度を上げていくのがAIとの付き合い方だと思っています。

一方で人間の役割は、会話の中から文脈や感情を拾ってキーワード化すること。それをAIに文章として整理してもらえば、効率化につながります。定量的な部分はAIに手伝ってもらって、それを自分で再構築して形にしていく。やはり感情が動く部分は、人間でないとできないところです。

編集部

編集部

人間らしさというところで言うと、デザイナーやエンジニアのアイデアを引き出すことも大切ですよね。

中尾 美幸

中尾 美幸

デザイナーにもエンジニアにも、専門職としての自分なりの考えが必ずあります。若手かベテランかによらず、私が思いもよらないアイデアや知見を持っているので、そこを極力すくい上げて生かしたいと思っています。こちらから考えを聞き、本人の意向も尊重しながら最大限仕事を任せて、想像を超えたものが上がってきたら嬉しくなりますね。

編集部

編集部

中尾さんご自身は、ディレクターとしてどんなプロダクトをつくっていきたいですか?

中尾 美幸

中尾 美幸

クライアントにもエンドユーザーにも、長く使っていただけるものを形に残していきたいですね。アクセシビリティや使い勝手の良さを考慮した、ストレスを感じさせないプロダクトになっているかが重要なので、体験設計を学んでいきたいと思います。

編集部

編集部

最後に、若手ディレクターへのメッセージをお願いします!

中尾 美幸 インタビューカット
中尾 美幸

中尾 美幸

文脈や感情をとらえられるディレクターになるためには、いろいろな方とコミュニケーションを取ることが大切です。自分の興味がある情報だけでなく、さまざまな意見に触れることで「共通言語化」のスキルが身につきます。AIによる効率化は進んでいきますが、あくまで最後は人。私たちがつくったものの先には、必ず使う人がいるということを意識していただければと思います。