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AIエージェントを活用した開発の最前線2025

現在ジークスでは、AIエージェントを活用した開発が着実に進んでおり、業務効率化や新たな価値創出に向けた取り組みが行われています。DevinやClaudeのようなツールに加え、最近では、ジークスがセレクトパートナーとなっているGitLabからもAIエージェントのベータ版がリリースされ、GitLab Duo Agentic Chatの利用も可能になりました。

今回はエンジニアの目線から、ジークスがどのようにAIエージェントを開発やプロジェクト進行に取り入れ、どのようなノウハウを得てきたのか、その実態と今後の展望についてお伝えします。

導入がもたらす開発現場の変化

AIエージェントを導入する背景には、もちろん世の中全体で加速するAI活用の潮流があります。しかしそれだけではなく、大きな要因となっているのは開発現場の切実な課題です。

プロジェクトでは、限られたリソースの中で高い品質を維持しながら、求められる納期・コストを同時に実現することが必要になります。その一方で、技術力を十分に確保することは容易ではなく、「やるべきこと」と「できること」のギャップに直面してきました。

このような状況を打開するための手段として浮上したのがAIエージェントです。単なる流行ではなく、高品質な開発の持続可能性を確保するために不可欠な存在として、開発現場への導入が進んでいます。AIエージェントは、人間が時間を割かざるを得なかった調査・設計・テストなどの作業を肩代わりし、チームが本質的な開発課題に集中できる環境を整えることで、その価値を示し始めています。

導入がもたらす開発現場の変化

AIエージェントを導入したことで、開発業務には以下のような変化が見られました。

コード調査の効率化

AIエージェントの活用により、コードの調査は従来と比べて格段に容易になりました。従来であれば、開発者は大量のソースを読み解き挙動を確認する必要がありました。特に既存プロジェクトへの新規参加や、オープンソースのライブラリを利用する際には、内部実装を把握するだけでも相応の時間と工数がかかります。

AIエージェントを導入することで、こうした調査のプロセスが変わっています。開発者が作成したソースコードはもちろんのこと、外部のオープンソースコードを対象にしてもスムーズな調査が行えるようになり、内部実装の把握やパラメータの挙動確認がスピーディになっています。

その結果、調査に費やす時間は短縮され、コードリーディングや不具合調査のストレスが軽減されるとともに、開発者は本来注力すべき設計・実装・改善にリソースを割けるようになりました。

開発スタイルの変革

従来は人間のエンジニアが要件定義から設計・実装・テストまで一貫して担い、すべてを人の手と知識で積み上げていくのが一般的でした。しかし現在は、開発者がAIと「並走」する形で作業を進めるスタイルが確立されつつあります。

AIが生成したコードは最終的に人間がレビューし、品質を保証する体制のため、リスクを最小限に抑えながら効率化を実現できます。また、AIのアウトプットは気軽に破棄できるため、「まずAIに作らせてみる」「結果が不十分なら捨てる」「良ければ取り込む」という軽やかな試行錯誤が可能になりました。この柔軟さは、人間が一からコードを書き進める従来のスタイルとは根本的に異なる特徴です。

結果として、開発プロセスは「完璧なコードを最初から人間が書く」という前提から、「AIが生成した案を起点に人間が取捨選択・改善を重ねる」スタイルへとシフトしています。この変化は、開発者の発想やチームのワークフローに新しい余白を生み出し、より短いサイクルでの検証や、イノベーションを可能にしているのでははないでしょうか。

ドキュメント作成の変化

従来の設計書は、人間のレビューや共有を目的とした形式で作成されることが一般的でした。しかし現在では、AIが解析しやすい形式を意識して、設計書をマークダウンや構造化されたテキスト形式で記述するケースが増えています。このような書き方にすることで、AIエージェントが設計意図や要件を正確に読み取り、コード生成やテストケース提案にスムーズに活かすことが可能になりました。

結果として、ドキュメントは「AIが理解しやすい書き方」へと変化しつつあります。開発プロセスの初期段階からAIの活用を前提にした記述スタイルを導入することで、開発へのAI支援精度と効果を高める基盤が整えられています。

並行作業の増加

チームの作業の進め方にも変化をもたらしています。従来は一つのタスクを完了させるまで人間が手を動かし続ける必要があり、その間ほかの業務に着手することが難しい状況でした。特に調査やプログラミングといった工程では、作業が終わるまで他の作業を並行して進めることができず、生産性のボトルネックになります。

しかし、AIにタスクを依頼することで状況は大きく変わります。プログラミングをAIに任せている間に、人間は別の設計作業やレビューや、次の機能要件の検討などに取りかかることができます。その結果、複数のタスクを同時並行で進められるようになり、チーム全体の回転率が向上しました。

このように、AIにプログラミングを任せることが可能になったことで、作業は直列から並列へと変化し、従来よりも短いサイクルで成果物を積み重ねられるようになりました。これは単なる効率化にとどまらず、開発チームの進め方そのものを変える要素となっています。

AIエージェント活用術 最大限に活かすコツと選定のポイント

AIエージェントを最大限に活用するためには、いくつかのコツと注意点があります。ここでは、ジークスがAIエージェントを利用する中で感じたコツと注意点をご紹介します。

明確な指示

開発現場で活用する上で、重要なポイントのひとつが「指示の出し方」です。AIエージェントに指示を出す際は、曖昧な指示は避け、具体的な実装イメージを明確に伝えることが極めて重要です。抽象的で不完全な指示を与えると、生成されるコードや提案も不十分なものになり、結果として手戻りや修正コストが増える原因となります。

自分が持っている知識や前提条件をすべて伝え、ガードレールとして「してほしくないこと」や「守ってほしいこと」を設定することで、期待通りの結果を得やすくなります。これにより、セキュリティや可読性を損なうコードが混入するリスクを減らし、期待通りの成果を得やすくなります。

事前調査とタスク分解

不明な点がある状態で依頼を出すとAIの回答も曖昧になり、期待した精度のアウトプットを得ることは難しくなります。そのため、不明点があれば先にAIに問い合わせて、理解を深めてから指示を出すことが効果的。また、ゼロから新機能やシステムを構築する場合には、タスクを大きな単位のまま依頼するのではなく、細かいステップに分解し、順を追って明確な指示を与えることが重要です。小さな単位で指示を積み重ねることで、生成結果の精度が高まります。

このプロセスは、人間の開発者がタスクを管理するのと同じ原則に基づいています。つまり、AIに丸投げするのではなく、人間がタスクを構造化して道筋を示すことで、AIはより正確で期待に沿ったアウトプットを返せるようになります。結果として、開発のスピードだけでなく品質も向上し、無駄な修正や手戻りを減らすことができます。

新規開発におけるアプローチ

これまで述べてきたように、AIエージェントには明確な指示やタスク分解が重要ですが、これとは異なる柔軟なアプローチも、未経験の実装に取り組む際には有効です。特に、実装のイメージがつきにくい場合は「やりたいことだけ」を伝えて、AIが生成した成果物を見ながら実装イメージを確認する手法も有効です。その後で具体的な仕様や改善点を追加しながら調整を行う、といった開発プロセスが可能に。結果として、未知の実装方法やライブラリに触れる機会にもなります。

また、AIが作成したアウトプットは人間が書いたコードとは異なり、気軽に破棄できるという心理的ハードルの低さも大きなメリットです。仮に生成された成果物が想定と異なっていても、試行錯誤を恐れずに作り直すことができるため、開発者は自由にアイデアを検証しやすくなります。

こうしたアプローチは「探索的な開発」を加速させ、AIを伴走者として活用することで、新しい発想や技術ソリューションを生み出す可能性を広げると言えるでしょう。

選定ツールと開発現場での使用感

導入のしやすさという観点では、DevinはWebアプリベースのAIエージェントであるため、特別な前準備が不要で、簡単に利用開始できる点が大きなメリットです。

一方、Claude CodeはローカルPC上でコードを書き換えるタイプのAIエージェントです。動作確認が容易なことから現場での人気が高く、さらにコード解析の精度が高いとの評価もあります。また、GitLab Duo Agentic Chatはまだベータ版ではありますが、現状でもプロジェクトで十分に活用できるだけの精度を持っています。

AIエージェントは日々進化しており、最近では単に指示を出すだけでコードが生成され、マージリクエストまで自動で行えるようになったり、生成したコードに対してフィードバック(褒める、修正を指示するなど)を行うとクレジットが返還される仕組みが導入されるなど、新しい機能も次々に登場しています。こうした進化に伴い、AIエージェントの使い方に関しても、人間側で日々アップデートしていく必要があると感じています。

AI活用の課題と注意点

AIエージェントの活用には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も浮上しています。活用時に直面した開発現場での課題と、考慮すべき点についてもご紹介します。

セキュリティリスクとコードレビュー

AIが生成するコードには、脆弱性のあるOSSを簡単に利用したり、バージョンの古いライブラリを用いた実装が含まれることがしばしばあります。さらに、一度に大量のコードを生成することもあるため、人間が全てレビューするのは現実的ではなく、脆弱性を見逃すリスクが高まります。

そのため、コードレビューや脆弱性チェックの工程にもAIを活用し、セキュリティリスクを下げる対策も組み合わせることが重要です。現在ジークスでは、GitLabDuoによるコードレビューも取り入れ始めており、AIによる品質担保、セキュリティリスクの低減にも取り組んでいます。

開発者の判断力を育成

AIがコードを生成することで、開発者自身が技術力・判断力を養う機会が減少する可能性があります。従来は自力でコードを書き、先輩のレビューを受けて修正するというプロセスを通じて、判断力や知識の定着が自然に行われてきました。

しかし、AIの利用によりこの経験が十分に得られず、学習機会の喪失につながり、知識の定着が難しくなるという育成上の課題があります。最終的にコードの妥当性や品質を判断するのは人間です。そのため、AIを活用しつつも「妥当性を判断できる開発者」を育成することは依然として重要です。

AIエージェントの選定

さまざまなAIエージェントが今後も登場することが予想されますが、利用にはコストが発生するため、簡単に比較できないという側面もあります。加えて、費用が発生することで、全社員への導入や浸透が難しいという課題もあります。

しかし、現在ジークスでは社員であれば誰でもGitLab Duo Agentic Chatが利用可能となりました。そのため、今後は利用者が徐々に拡大していくことが見込まれています。

開発者がAI時代に求められるスキルと未来像

AIエージェントの活用は今後ますます広がっていくと考えられます。それに伴い、開発者に求められるスキルも変化していくでしょう。

まず、AIに的確な指示を出すためには、コンピュータサイエンスの基礎知識や専門用語の理解が重要です。デザインパターンなどの専門的な用語や概念を正確に伝えることで、AIはより正確かつ効率的に作業を行うことが可能になります。さらに、AIに細かい作業を依頼する際には、タスクを詳細に分解し、一つひとつ明確な指示として伝える「指示力」も不可欠です。

今後もAIを利用した新技術やサービスが次々と登場することが予想されます。その際に、新しいツールや技術に臆することなく柔軟に活用する「フットワークの軽さ」も、開発者だけではなく組織全体にとって重要なスキルになります。変化に対応しながら積極的に学ぶ姿勢が、AI時代の競争力の源泉かもしれません。

いくつかの課題も見えていますが、AIエージェントの導入は、ジークスの開発現場に新しい可能性をもたらしています。今後もAI技術を積極的に取り入れ、効率性と品質の両立を目指し、より高度な開発を実現していきます。