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本気とユーモアの狭間で──ノベルティにかけるデザイナーの独白

ジークスには、毎年恒例の全社研修「ジークスデイ」があります。そこで配られる工夫を凝らした限定ノベルティは、社員にとってちょっとした楽しみのひとつになっています。しかし、その裏側には完成に至るまでのさまざまな物語があります。今回は制作に携わったメンバーたちの葛藤を、読者の皆さまに臨場感とともに追体験していただくため、渋めの独白スタイルでお届けします!

──この物語は、ノベルティ制作に挑んだ熱きデザイナーたちの記録である──

2023「ZYYX SOCKS」F氏の場合

一歩目

机の上には白い紙が一枚、鉛筆の先はまだ温まらない。窓の外では、粉雪が夜の底を静かにさまよっていた。

テーマはジークスが大切にしているマインドである「think IT, love IT.」。企画は山ほどあがったが、どれも決め手に欠ける。時間だけが過ぎ、気づけば配布まで残り三ヶ月だ。

焦りと一緒に、かつて考えた「架空のECサイト」の案が頭をかすめた。尖ったデザイン、架空の商品。懐かしい残像を追いかけるうちに、ふいに「靴下」という言葉が落ちてきた。根拠はなかった。ただ、「これを履けばもう一歩踏み出せるかもしれない」と思えた。

翌日、同世代の仲間にそっと相談した。反応は悪くない。むしろ、意外なほど肯定的でその笑顔が背中を押してくれた。

助走

「おしゃれは足元から」という言葉がある。本来は靴のことを指すのだろう。だが、靴下に対して使うとツッコミどころもあって面白いかもしれない。

「ITは足元から」

──そんな言葉が、ふいに口をついた。キャッチーなメッセージだ。深い意味はないが、サイズがぴたりと合う靴下のように妙にしっくりきた。

既製品では見ないような面白い表現をしたかった。カラーやダイナミックなタイポグラフィ、細部の遊び心にまでこだわってデザインした。追い求めたのは、売り物にしても恥ずかしくない一足だ。

靴下のラフ案

足踏み

品質の妥協はできない。業務を終えたあと、オリジナルの靴下を小ロットで対応してくれる工場をひたすら調べ続けた。ようやく納得できる品質を担保できる工場にたどり着いた。

その担当者は、意外にも会長本人だった。デザインを見せると、

「思うてたんとぜんぜんちゃう、大変なやつやん⋯、ママさんバレーのオリジナルソックスとかしかやってないで」

──え、ママさんバレー!? ここまで調べ倒して、“ママさんバレー特化型工場”ってどういうこと?胸がざわつくなんてもんじゃない。

しかし、その一言が挑戦の火種になった。「よし、むしろここからが本番だ。ママさんもジークスの社員も唸らせる靴下を作ってやろうじゃないか」と。

色数を減らし、左右のバランスを整え、こだわり抜いたデザインが実現できるように調整を重ねる。

試作品を見せてもらい、落とし所を探るやりとりが続いた。何度も積み上げたやりとりは、手間でありながらも、気づけば不思議と楽しい時間になっていた。そうしてついに、理想の一足がかたちになったのだ。

最後まで粘り強く付き合ってくれた会長には、感謝の気持ちを込めて長文のお礼メールを綴った。

完成した「ZYYYX SOCKS」

跳躍

全社員が集まる研修で、プレゼンの番が巡ってきた。

「新規事業を発足します!!」

高らかに宣言し、メンバーに作ってもらった2本のプロモーションムービーを会場に流す。ひとつは「Let’s Put Our Best Foot Forward(初っぱなから全力で駆け抜けようぜ)」、もうひとつは「God is in the details(神は細部に宿る)」というメッセージを込めた。

プロモーションムービー内で「Let’s Put Our Best Foot Forward」と書かれている写真
プロモーションムービー内で男性が楽しそうにしている様子

ノベルティの靴下をお披露目し、プレゼンは幕を閉じた。最後に「新規事業は嘘です」と告げたが、「いや、本当に始まるんじゃないか」と誰もが思っていたはずだ。

結果、靴下の評判は上々。山登りにもいい、ゴルフにもいい、顧客との会話のきっかけにもなる。とりわけ、おじさんたちの心にはしっかり響いたようだ。

反応は思った以上で、正直驚いた。苦労もあったけれど、不思議とそれすら楽しめていたのだと思う。最後に残ったのは、足元からじんわり広がる確かな充実感──まるで、いい靴下を履いたときのあの感覚のように。

2024「ホンキちゃんバッジ」S氏の場合

kokorozashi

ついに社員が会社で目標とする「志」が発表された。他社で言うパーパスのようなものだ。

「本気で“つくること”が未来の誰かを幸せにする」

社長を中心に、社員一人ひとりの言葉を丁寧に磨き上げ、たどり着いた結晶のような志。発表の場で社長は、満足げにその言葉を掲げていた。

しばらくして、今年のノベルティはその志を普及させるために作ろう、という話があがってきた。作って終わりではなく、社内へ浸透させ、日々の行動に落とし込む必要がある。

デザイン室長から指名があり、イラストを描くのが得意な僕に白羽の矢が立った。
心の奥に、静かな灯がともるのを感じる。誰の胸にもそっと寄り添うような、可愛らしいものに仕上げたい、そう思った。

embody

上司からバッジがいいのではないか?と提案を受けた。志をいつも胸に留めておけるような、小さくて静かな存在。うん、いいかもしれない。

さて、モチーフはどうするか。意見を交わすうちに、「キャラクターを作ろう」という話になった。社員の想いを象徴するハートと、日々の業務に欠かせないPC。二つのモチーフからキャラクターを試作した。デザインはすぐに形になり、思っていた以上にすんなりとつくることができた。

完成した案を上司に見せ、ハートをモチーフにしたキャラクターをブラッシュアップすることになった。フィードバックを受けながら細部を調整。ハートの形状のバランスや、さりげなく入れたそばかすなど、キャッチーに見える工夫を盛り込みつつ、性別を問わず身につけられることを意識して仕上げていった。

そしてキャラクターが決まった。名前は「ホンキちゃん」。

ホンキちゃんのイラスト

志に込められた思いを、少しやわらかく、でも芯を残して伝えてくれるような存在。

“smile”、“future”、“honki”

ホンキちゃんはきっと、その化身のようなものだ。

細部の調整も惜しまない。バッジの大きさ、周囲の線の太さ、文字の配置やバランス。ひとつひとつを検証し、描き直し、試作を重ねる。小さな存在に込める思いが、少しでも正しく伝わるように。

move

配布のタイミングは、最初から全社研修の場と決まっていた。けれど、製造を依頼した工場が中国にあり、旧正月と時期が重なってしまった。

間に合わなかった。

どうしようもないことは、頭では理解していた。マウスカーソルがぐさりと心に刺さり、心の奥で悔しさが静かに滲む。

バッジとともに配布する、パッケージにも手をかけた。手に取った人が「なんか、かわいい」と身につけたくなるように。

上司のデザイン室長が自分の手でひとつひとつ、完成したパッケージにバッジを差し込んでいた。その姿はもはや職人のようで、針の穴を通すとはこういうことなのかと気づかされた。大柄な室長が細かい作業を真顔で行う姿を見ると、なんだか笑えて、そしてすこしだけ温かい気持ちになる。

ホンキちゃんバッジの写真

後日、東京、大阪、福井の各拠点で配布をした。「意外と可愛いな」「思ったよりしっくりくる」と、何気ない声が聞こえてくる。キーケースやポーチなど、みんな各々好きな場所につけていた。作り手としての達成感と、誰かの心にちょっとした喜びを届けられたこと、それを実感する瞬間。

そして現在、ホンキちゃんはバッジだけに留まらず、オフィスのポスターにも描かれ、社員たちを見守っている。

ホンキちゃんのポスター1枚目
ホンキちゃんのポスター2枚目

志は、文字として掲げるだけではなく、行動やふるまいの中にこそ表れるのだと、改めてこの制作を通して感じた。小さなノベルティ一つが、思いをかたちにすることの意味を教えてくれた。

2025「ガチナールZ」M氏の場合

調合

風鈴が鳴るたびに、外の熱気が少しだけ薄まる気がした。今年もノベルティを考え始める時期だ。

メンバーの一人から「過去のボツ案、まだ使えるんじゃない?」と提案があった。円柱のビンにラムネを入れて、錠剤のように見せたノベルティ。

「薬の名前はタノミタクナール」と口にした瞬間、みんなの表情がわずかに変わった。もしや“伝説のボツ案”が蘇るのか──そんな妙な緊張感が漂った。

これは以前顧客向けに考えたネーミングで、少し考え直す必要がある。全員でネーミング案を出すことになったが、どう考えてもふざけているとしか思えない案が並ぶ。「これって薬?合法なの?」会議室の空気は混沌としていた。

そんな混沌の果てに決まったのが、「ガチナールZ」。怪しい錠剤の名前に、気づけば全員が頷いていた。まるで、怪しい新興団体の決起集会を目の当たりにしたかのように。

コンセプトは、ただ一言――「ガチになろうぜ」。短くて強い。

臨床試験

パッケージには徹底的にこだわった。細部まで作り込みながら、ユーモアを忍ばせる。 みんなに案を募ったら、成分表示のネーミングは想像以上の数が集まった。正直「こんなに出てくるのか」と少しひるむほどで、選びきるのに苦労した。

一部の表記にNGワードが含まれており、「ホンキ二ナロンエース」が「ホンキ二ナロウエース」になるなど、細かい調整が入ることもあった。

ガチナールZの写真

このノベルティは「個人に向けた処方箋」という形で配ることにした。マネージャーからチームのメンバーに効能という名のメッセージを書き添える。受け取った人が前に進むための力になるように。そして、誰に何を処方するかを考える時間は、メンバーのことを想う時間にほかならない。

もっとも、中には意味を履き違えるマネージャーもいた。真剣に考えた末、処方欄にプロレス技を書いてくるあたり、確信犯に近い。

デザイン室長の行きつけの店のマスターにお願いし、処方箋袋へマネージャーが考えたメッセージを書き入れてもらった。その手書きの文字には、唯一無二の温度が宿る。ほかにはない味わいだ。

ガチナールZの処方袋の写真

ガチナールZを飲むと目がバキバキになり、画面についた指紋などの細かな汚れが気になりだすという副作用がある。(もちろん“そういう設定”だ)

もはや仕事の生産性よりモニターの清掃率が爆上がりする薬ならば、モニターの汚れを落とすクロスを一緒に渡すと喜ばれるだろう。

クロスのデザインは、ガチナールZを映画のポスター風に表現するのはどうだろう?イラストをメインにして作ることにした。ここはホンキちゃんの生みの親、イラストが得意なS氏の出番だ。

役員たちをキャストに見立てると、まるで少し昔のアニメ映画風ポスターだ。過去にも役員を登場させたデザインで傑作を生み出している我がチーム、今回もやはり期待を裏切らない。あとはプレゼンを残すのみだ。

クロスの写真

投与

プレゼン当日。「みんなは本気の意味をまだ理解していない」とあえて煽った。だからこそ、このノベルティで“ガチ”を注入するのだと。会場の空気が一瞬ざわつく。

発表を終えると、処方箋を受け取った仲間たちの顔に、笑みが広がっていた。顔は笑っていたが、目の奥に”ガチ”が宿っているように見える。

ひとつひとつに手書きのメッセージを添えたことには驚かれた。毎年、研修の運営委員会がねぎらいの言葉をくれるのも、やはり嬉しい。「家に置いていたら、母に怪しまれた」――そんな声まで届いている。

今回の制作で胸に残ったのはひとつの確信だ。

“本気でつくることが、未来の誰かを幸せにする”

その実感が、自分の中に根ざしていた。

まとめ

これらのノベルティ制作は単なる配布物にとどまらず、ジークスが大切にしている価値観やメッセージを社員に届けるための取り組みです。毎年の企画には、その年のテーマや想いを込めて、デザインを楽しみながらも妥協せず形にしています。

普段のプロジェクトでは、業務システムやポータルサイトといった、実用性や機能性を重視するデザインを手がけることが多い私たちですが、ノベルティづくりではまた違った発想や遊び心を表現することができます。

次のノベルティ制作でも、ただ面白いだけではなく、社員の心に小さな灯をともすようなものを届けたいと考えています。

企画やUIデザインが好きで、ノベルティづくりのように遊び心を形にする仕事にも興味がある方は、ぜひ採用ページも覗いてみてください!

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